家族

老後資金が凍結される現状

人生100年時代となって単純に喜べるわけではありません。
その理由は健康で正常な判断が出来たうえで生活に必要な資金があることが100年時代を謳歌する条件です。

しかし、若いうちから老後資金の準備は出来ても、健康や正常な判断が約束されているわけではありません。
いざ、介護が必要となって準備していたお金が使うことが出来ないとなると本末転倒ですね。

実際に老後資金が凍結されて家族が困ったケースが最近増えてきました。
そして、今後は更に増えてきて社会問題化するかもしれません。

なぜ凍結されるのか?

日本では本人名義の財産は法律でしっかりと守られています。
なので家族であろうとも勝手に財産を自由には出来ません。例え夫婦間であっても。

では、本人が認知症になって判断が出来ない場合には、その本人の財産はどうなるのか?
答えは、基本的に誰も手を付けられないことになります。

認知症が進んで施設に入ることになった。そこで入所費用を本人名義の財産から出そうとしても本人に判断能力がなければ払い出すことは出来ない。
仮に成りすまして勝手に財産を売却すれば例え家族でも犯罪になるかもしれない。

そのあたりは金融機関も慎重に本人確認を行い、本人以外には手続きが出来ないようになっている。

凍結された財産はどうなるのか?

方法は2つしかない。

一つはそのままにしておく。
そして本人は死亡した場合に相続財産として遺族が受け取る。

もう一つは成年後見人制度として家庭裁判所にて後見人を選出して財産の管理を委託する。
ただし、全ての財産を管理できるわけではありません。出来る条件も限られています。

後見人は毎年裁判所へ財産状況を報告しなければいけません。なので家族が後見人となることも出来ますが、大変な作業となるので専門家に後見人を委託する場合が多いようです。

その場合は毎月または毎年の費用がかかるので保有財産はどんどん目減りしていきます。
また、家庭裁判所で後見人の選出をする場合も時間と費用がかかります。

なので、まだ判断が出来る段階で任意の後見人を指定しておくことも出来ます。

しかし、保有財産の中で流動性資産が少なく、不動産や証券などが多い場合は成年後見人制度では難しくなります。たとえ後見人であっても不動産や証券などは売却することは出来ないので。
この場合は塩漬けになる可能性が高くなります。

認知症などの判断が出来なくなる前に準備するのがベストですが、判断できなくなってからではどうすることも出来ないということの様です。

本人の財産を守る権利が最終的に自分を守ることが出来なくなるといった矛盾した制度をよく理解してお金ければいけません。

本当に財産を守れないのか?

では判断できる段階でも何も方法はないのか?

判断できる段階で有効な手段は大きく分けて2つしかないでしょう。
先ほどの成年後見人制度がその一つでありますが、もう一つの制度が「家族信託(民事信託)」です。

成年後見人制度と違って細かな制限はありません。
その理由が財産を信託するからです。

成年後見人制度は本人が生活するための最低限必要な手続きを代行するだけに留められています。
それに対して家族信託は財産を託しているので受託者(家族)は財産の売却や購入の判断を代わりに行うということが出来るのです。

財産だけでなく判断まで委託するのです。
具体的に説明すると、本人に代わり本人の金融資産を運用してあげる行為や本人名義の不動産を本人の代わりに売却して本人の資産とする行為などが可能となります。

家族信託のしくみ

家族信託とは、財産の所有者(委託者)が家族に名義を預けて管理を委託(受託者)います。財産の名義を預けているだけなので贈与税や不動産取得税などは発生しません。委託した財産の権利を持つ人を受益者といい、委託者をそのまま受益者に設定します。
なので、高齢となり認知症などで意思判断が出来なくなる前に家族信託を行っていると、資産が凍結されるのを事前に防ぐことが出来て、委託者に変わって金融資産・不動産・自社株などの管理・運用を受託者の子供等に任せることが出来ます。
しかし、財産名義は受託者に移っても、その財産の権利はあくまで受託者=委託者なので親の財産となります。
委託者の老後のためや看護・介護の費用や施設への入所費用などに使わなければいけません。

信頼できる家族に信託するので、家庭裁判所の介入や成年後見人制度などは不要となります。毎年の裁判所への報告と成年後見人に対しての高額な報酬は発生しませんので管理が楽になります。

家族信託

家族信託には大きく分けて2つの目的があります。
1.認知症対策
2.円滑な相続対策

1》認知症対策

昨今、日本中で空き家が急増している問題で、その要因に独居老人が認知症になり施設に入所していることも一因であります。
また老後資金対策としてアパート経営をしていた場合に認知症となったために管理・修繕や建て替えなどのことが出来なくなり銀行からも本人名義なので借入が出来ない状態でアパートが老朽化し、入居率が低下して維持費だけがかさんでくる状態になることも多いようです。
成年後見人制度ではアパートの管理や運営を行うことは出来ません。老後の為にアパート経営で年金の足しにでも思っていたことが逆に負の遺産にも成り兼ねません。

また、金融商品でも成年後見人が運用を行うことは出来ません。老後資金を運用で考えている場合には認知症になっても代わりに誰かが委託されていると老後資金の確保にもなります。


2》円滑な相続対策

家族信託で設定された信託財産は遺産分割協議の対象にはなりません。なので生前に予め財産を受託者に信託しておいて、死亡後に信託財産を相続できるように設定が出来ます。

遺産分割協議を行う場合は意思判断能力がなければならず、妻が認知症だったり障害がある子などがいる場合は成年後見人を付けなければいけません。

本人の意思を尊重する相続にするには遺言書が有効です。家族信託で設定された信託財産は遺言書に入れなくていいので、遺言書の代わりになると思ってもいいでしょう。

また、自社株などを相続する場合は会社の決議権も関係してくるので後継者に相続するのが望ましいです。しかし、遺産分割協議で後継者以外に自社株が相続されると会社自体に大きな影響を与えかねません。
このような時に家族信託を活用すれば効果的です。

財産を全て家族信託にするのではなく、通常の相続と家族信託の帰属権利者(死亡終了時)を併用することも可能です。大事な財産だけでも意思を尊重して相続させることも可能となります。

このように、民法による相続と信託法による相続では扱いが異なりますので、どちらで相続準備をした方が円滑な相続が出来るかを選択するのがよいでしょう。

相続財産

また、受益者が死亡した場合に第二受益者、第三受益者と後順位受益者を指定することが出来、認知症患者や未成年者・障害者等でも問題なく受益権を得ることが出来ます。(通常の相続であれば成年後見人が必要)

このように委託者の意思が二次・三次相続まで円滑に行うことが出来ます。

家族信託の実行と課題

2007年9月の民事信託法の改正により、今まで信託業法の免許を持っている金融機関しか認めてなかった信託が、一般の個人でも活用することが出来るようになりました。

しかしながらそのスキームは大変複雑でかなりハードルが高くなっています。決して個人のレベルでは出来るようなものではありません。

当然司法書士や弁護士、税理士などの専門家の力を借りなければ実行することは出来ません。
では、専門家なら誰でも出来るのか?となるとまだまだこの分野に関しては精通している専門家も少ないようです。

更に、受託者に財産を信託する場合に金融機関に信託口口座というものを作らなければいけません。
残念ながら、まだ少数の銀行や証券会社しか対応していません。

このように制度としては素晴らしいものになっていても、それを運用できる専門家が極端に少ないのが現状です。
実際に家族信託を考えたときには信託プランから実行・管理・運用のアドバイスの助言をしてくれるコンサルタントが不可欠です。

一家の大事な財産ですので失敗しない相続を行うためにコンサルタント選びが重要になってきます。

※家族信託という用語は一般社団法人家族信託普及協会の登録商標です。
家族信託=民事信託と解釈されてもいいと思います。

一般社団法人家族信託普及協会
https://kazokushintaku.org/




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